久々のあかでんとてんはませんのえとせとらです。
……と言っても、時事ネタがちゃんと拾えてない程度に忙しいので、今日は何の日?ネタで。

遅刻なのは承知済み。

 


「おとーさん、おとーさん」
 何かと思えば、我が息子・てんぱまが真剣な顔をして僕を呼んでいた。
「どうしたんだい?」
「きょうは、けいろーのひだそうですっ」
「ああ、敬老の日だね」
 言われて思い出した。そういえば、今日は敬老の日イベント関連で団体さんが多かったっけ。
「それがどうかしたんだい? てんぱま」
 目線の高さを合わせて息子に笑顔を作るが、彼の真剣な表情は消えない。
「けいろーのひって、おじいさんおばあさんに『ぷれぜんと』するひ、でしょ?」
「……プレゼントっていうか、感謝する日だね」
 その微妙な知識はどこで手に入れてきたのか問い詰めたい欲求にかられたが、息子相手にムキになっても仕方がない。
「ぼく、おじーさん、おばーさんに、ぷれぜんとしたい」
「うんうん、いいことだね、てんぱま。きっと喜ぶよ」
 彼のいう『プレゼント』は『感謝すること』だと脳内で置換した上で、息子を褒め称える。そういうことを考えることができるようになるまでに成長したのかと思うと、嬉し泣きレベルだ。
 ああ、どっかの誰かに親バカだと陰口叩かれそうだが、知ったこっちゃない。
「おとーさん! ぷれぜんと、したいの!」
 だが、息子の様子が変だ。
「うん? プレゼントするといいと思うよ」
「そうじゃないの! ぼく、ぷれぜんと、だれにするの?」
「へ?」
「ぼくの、おじーさん、おばーさん。どこにいるの?」
「……」
 そういうことか。そこまで言われて、僕は考えこんでしまった。というのも、僕自身は全く縁のないイベントであったからだ。僕自身の祖父や祖母に当たりそうなモノも人も思いつかない。敬老の日イベントにしたってそれは乗客に対してのものであって、僕自身の個人的なイベントではないのだ。
 しかし、なんで突然そんなことを言い出したのだろう。
「あのね。ぼくの、おともだち。おじーちゃんおばーちゃんといっしょにのってる」
「……あー」
「おじーちゃん、『孫からの敬老の日プレゼントが嬉しい』っていってた」
「……」
「ぼくも、おじーちゃんおばーちゃんに、ぷれぜんとしたい」
「……えっとね、てんぱま」
「ぼくのおじーちゃん、おばーちゃんは、どこ!」
 困ってしまった。誰に似たのか、一度言い出したら聞かないところがある我が息子の悪い癖が出てしまった。とはいえ、僕自身『父母』ですら存在しない。強いてあげるならば、育ての親というべき元東海道、今は大井川鐵道にいる彼くらいなものか。
(あの方に逢いに行くのもなあ……)
 新聞などで大井川鐵道の状態、彼のことについては目にするが、実は第三セクターになってから一度も逢いに行っていない。どころか、彼がまだ国鉄で関西方面に飛ばされる直前にあったのが最後であり、もう何十年も会っていないのだ。今更押しかけて、僕の息子から『ぷれぜんと』を送られても、迷惑以外の何物でもないだろう。
 とはいえ、息子は『ぷれぜんと』する気満々である。誰かに何かをしなければ、きっと納得しないであろう。
 しばらくうーんと悩んでいたが、ポンといいアイデアが浮かんだ。
「てんぱま。こういうのは年長者にあげるのだよ」
「ねんちょーしゃ?」
「そう。おとうさんよりもずっと年上の人がおじいさんおばあさん。年長者っていうんだ」
「へー! ねんちょうしゃ! おとーさんよりとしうえ!」
 ……口に出してから微妙に間違ってる気がしてきたのだが、覆水盆に返らずである。
 しかも、息子は一生懸命僕より年上の相手を考え始めている。
「ねえねえ、おとーさん」
「な、なんだい?」
「おとーさんよりもとしうえ、で、おかーさんよりもとしうえ、だよね?」
「あ? ……あー、うんうん」
 ……そういえば、僕より嫁のあいつのほうが年上だった。良かった、息子が気づいてくれて。これで「おとーさんよりとしうえだから、けいろうのひ!」と嫁に言い出したら、その後嫁に何を言われるかわかったもんじゃない。
 しばらくあーうーと考えていた息子だったが、やがて。
「けいろうのひ、みつけた! ぼく『ぷれぜんと』わたす!」
「……誰なんだい?」
 ぱあっと顔を輝かせてその名を告げた我が息子の言葉に、僕は思わず大笑いしてしまったのだった。


「……というわけなんで、あかでん」
「あかでんおじさん、けーろーのひ、おめでとうございますっ」
「……」
 息子と一緒に西鹿島駅にやって来るなり、たまたま駅で仕事をしていたあかでんを捕まえて、強引にプレゼントを渡す。軽く事情は説明したものの、あかでんの奴は納得してないような微妙な雰囲気で、とりあえず息子からの『ぷれぜんと』と書かれた封筒を受け取ってくれた。
「……ちょっと天浜さん、いいですか」
 だが、その直後に僕は首根っこを掴まれ、そのまま西鹿島駅の裏手に引きずり込まれる。
開放されたところであかでんの顔を見上げたが、その表情は怒ってるようにも困惑しているようにも見えた。
「あのさあ、天浜。オレがまさか『敬老の日』対象になるとか、考えたこともないんだけど」
「だから、このへんで年長者って言ったら!」
「……確かにあんたよりも年上かもしれんけどな。ぶっちゃけた話、あんまり変わらんだろうが」
「えー、だって。成立年度考えたら君のほうが年上じゃんか」
「それ言い出したら、オレよりも銀のほうが年上だぞ」
「てんぱまが言い出したんだよ。万が一、銀の方にこれ渡すって言ったら、僕は全力で止めてた」
「なんでオレはいいんだよ」
「銀の方、年の話すると切れそうだから」
「……」
 僕の言葉に、あかでんは苦笑しつつもうなずきを返してくれた。本当は見た目的にも銀の方よりあかでんのほうが年上っぽい上に、僕自身も銀の方よりあかでんのほうが年上だと結構長いこと思っていたからなのだが、それはココロの中に閉じ込めておく。
 あかでんはしばらくの間、手の中にある息子からの封筒を真剣に眺めていたが。
「……ま、子どものやることにいちいち腹立てても仕方ないしな」
「あ、ありがと!」
「てんぱまちゃんにはちゃんとお礼を言わないとね」
 そう言って、あかでんは駅のベンチでうつむき加減に座っていた息子のもとへと歩み寄っていく。気配に気がついて顔を上げた息子に対し、あかでんはニッコリと笑うと。
「ありがとな、てんぱま。オレも頑張るから、てんぱまも早くオレみたいに大きくなれよ」
 優しく息子の頭を撫でる。息子はくすぐったそうにはにかむと、
「うん! おじちゃんみたいになる!」
満面の笑顔であかでんの優しさを受け止めたのだった。


「……あーよかった。本当にありがとな、あかでん」
 その夜、最終列車で西鹿島駅に立ち寄った僕は、宿直の準備をしていたあかでんに改めてお礼を述べた。あれで息子はごきげんになったので、僕としては本当に助かったのだ。
 だが。
「本当に良かった、と思っているか?」
 あかでんが僕を見るなり暗い笑みを浮かべる。
「え、っと。なんかあった、の……?」
 嫌な予感がして聞き返した僕の両肩をガシっと捕まえると。
「あの時な、オレらだけじゃなくて、他にもいたんですよ」
「……え?」
「そいつがな、面白おかしく吹聴しまくったみたいでな……」
「えーっと……」
 他に西鹿島駅に立ち寄るモノといえば……?
「社内はおろか、さっき、ミヤにまで『ステキなおじいさま』呼ばわりされてですね……」
「……すみません」
 ミヤ以外なら、心当たりはただひとつ。僕の元カノこと、北遠さんのしわざだ。
「一応、実年齢はともかく、心は若いつもりだったオレのプライドがずたずたなんですよね……二俣さんよ」
「……」
 きっかけは僕なので批判は甘んじて受けるつもりではあった。だが、これは僕のせいなのだろうか? 半分とばっちりを受けている気分であったが、反論する気が起こらない程度に、その時のあかでんは怖かった。別に暴力を振るわれたとかそういうわけではない。雰囲気というか、声色というか、そういうのが恐怖心を掻き立てるのだ。
 今度改めて詫びを入れると謝り倒して、隙を見て西鹿島駅を逃げ出した僕であったが、この後しばらくの間、西鹿島駅停車時はビクビクしつつ、あかでんと視線を合わさないようにする日々が続いたのだった。


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北遠さんは丁度本社に戻る途中に見かけたので、そのまま面白おかしく喋ったら、女の子の井戸端会議で尾ひれ背びれがついて「あかでんさんを「おじいさん」と呼ぶ子どもたちが群がってる→隠し子どころか隠し孫!?」というネタになっていたという裏話は、彼にとって大ダメージだったようでございます。 
天浜さんはあくまでとばっちり。あかでんもそれはわかってるけど、怒りのやり場がそこにしかないという何か。

とはいえ、てんぱまちゃんの『ぷれぜんと』はしっかり額に入れて飾ってあるらしいですよ?


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私信:来年7月ですね!やりましょう!新作で浜松まつりネタとくるるの小さな恋のメロディ(意味不明)とあとなにか書きたいと思ってます!よろしくお願いします!