あかでんと天浜線のエトセトラ。Vol.2より転載。
2009年の冬コミ発行。…しかし、この年の冬コミは私参加してなくて、委託先に適当に配ってください!と預けたら昼過ぎになくなっていた記憶がある。

……いや、売れるところはすごいなあとその時思ったんですが(意味不。

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 今日は日曜日。でも、ただの日曜日じゃない。
 今日は特別な日。いろんな意味で。

 今日のあかでんはドラ焼きを売っていた。あかでんとドラ焼きという一見不可思議な組み合わせだが、これにはちゃんと理由がある。
 余談であるが、現在地は西鹿島駅である。
 理由。それは、今日が遠鉄のトレインフェスタだから。
 なんとあかでんは、【アカデンジャー】という自キャラの着ぐるみを身につけた状態で、子供たちに囲まれながら遠鉄車両のイラストが入った特製ドラ焼きを売っていたのだ。
 微妙に暑い。着ぐるみのせいなのか、熱気のせいなのかわからないが。衣装と地肌の間を汗がつーっと伝う。
 そんなに広くはない、西鹿島の車両工場。その中に、たくさんの家族連れが集まって来ている。ほとんどが遠鉄電車に乗ってやってくる。一部は天浜線に乗ってもやってくる。それはそれでうれしいのだが、あかでんは今日という日程だけは恨んでいた。
(なんでよりによって今日なんだ……!)
 本当ならば、こんなところでドラ焼きを売ってるよりは、とある場所へ出かけたかった。だが、今日はある意味自分が主役である。主役が抜け出すことなど、普通に考えて許されないことだ。仕方がないので、子供たちの相手をしながら、たまに写真を一緒に撮られながら、あかでんはドラ焼きを売り続けるのだった。

 昼過ぎ。
 今日の予報は雨が振るという話だったのだが、すっきりと晴れている。雨ではフェスタが困るので晴れてくれるというのはいいことなのだが、11月とは思えないくらい日差しが強く、あかでんはすっかり汗だくになってしまった。
 人出が一段落したのをいいことに、工場の隅の一般入場禁止区域で休憩をしていると。
「よお。がんばってるじゃん」
 やってきたのは遠鉄バス。なんとなく涼しげな表情に見える。
「なんだ、暇そうじゃん」
「そんなことないぜ。今日はここだけじゃなく、天浜さんや企業さんも秋祭りだから」
 西鹿島駅から2駅先、天浜線こと天竜浜名湖鉄道も、同じくトレインフェスタをやっていた。ついでにどっかの企業も秋祭りだったらしく、ちょうど合流点となっていた西鹿島駅は激パになっていたのだ。
「天浜のほうは見てきた?」
「ああ、あちらさんも盛況だぜ。まあ、ハシゴしてる人が多いだろうね」
 実際の話、天浜線は電車で来場した人にくじ引き券を配っていたし、遠鉄は遠鉄で天浜線との共通フリー切符を持っていた人に1回くじ引き無料にしていたわけで、相乗効果を狙ってこの日程にしたといえばそのとおりなのである。
 まあ、11月の頭。
 日曜日。
 紅葉シーズンもあいまって、人が集まりやすいといえば集まりやすい。だからこの日程なのだ。
 わかる。
 わかるのだが。
「なあ、バス。頼みがあるんだが」
 あかでんは遠鉄バスの眼をじっと見つめる。
「なんだ?」
 まじめな顔をするあかでんにぎょっとしつつも、遠鉄バスは平静を装って聞き返す。
 そのあかでんから発せられた言葉は。


「アカデンジャー、代わってくれない?」


「はあ?」
「ちょっと代わってくれよ! もうそんなに忙しくないし。ドラ焼きなくなったら引っ込んでくれていいし!」
「そういう問題じゃねえだろ! アカデンジャーはお前の仕事じゃないか!」
 呆れて怒りがこみ上げてきた遠鉄バスに、あかでんは頼み込む。
「いいから代わってくれよ!」
「……どこ行くつもりだ」
 遠鉄バスはあかでんの意図がわかっていた。だが、今日は会社をあげての祭り。業務を離れるなんて許されるわけがないのだ。
 遠鉄バスの問いに、あかでんは答えなかった。かわりに黙ってアカデンジャーの衣装を脱ぐと。
「うわっ!」
 その衣装を遠鉄バスに投げつけるや否や、あわててロッカー室の中に篭ってしまったのだ。
 その強引さに、遠鉄バスは呆れるしかない。ちゃんと言えばいいのに、と思うのだが、こういう奴なのでしょうがない。
「お前、どうでもいいけど、バスは運転できるのか?」
 呆れた口調で遠鉄バスがいうが、返事は帰ってこない。もともと返事は期待していなかったので予想通りといえばそうなのだが、どうするつもりなんだろう。
「俺がアカデンジャーやると、バスの運転できないぞ」
「足は用意してる」
 返ってきた返事に、もうなにも言えない。
「……わかったけど、俺はアカデンジャーやらんからな」
「何でだよ」
 着替え終わったのか、私服姿になって出てきたあかでんに、遠鉄バスはにやりと笑っていった。
「ドラ焼き、完売だってさ。今さっき」

 ややあって西鹿島駅から飛び出したのは、保線用の軽トラに乗ったあかでんだった。

 あかでんは一路、山奥を目指した。山のほうは雲行きが怪しい。だが、行かねばならない。なぜなら、それが最後の日だから!
 西鹿島駅から車で1時間少々。あかでんはたどり着いた。

 中部天竜駅に。

 そして、勢いよくなだれ込んだあかでんを待っていたのは。
「え……? 式典は13時から14時まで?」
 そう、この日は、中部天竜駅に隣接してあった佐久間レールパークの営業最終日だったのである。あかでんは、その最後の勇姿を見に行くためだけに、軽トラを飛ばしてきたのである。だが、すでに時間は15時。式典その他はすべて終わっていた。
 そして、追い討ちをかけるかように、突如激しい雨。慌てて来たあかでんが傘なんぞ持っているわけがない。ただただ濡れるしかない。
「そ、そんな……。せっかくの最終日が……」
 愕然とするあかでん。だが、そんな愕然振りなど誰も知る由もない。家族連れやら鉄オタやらがひっきりなしに通り過ぎる。
 雨に濡れた「また、JR東海博物館(仮称)でお会いしましょう」の看板だけが、あかでんをやさしく眺めていた。
 そして。16時になった。「ありがとうございます!」のアナウンスとともに、レールパークは閉園したのだった。
 とぼとぼと園から出て、中部天竜駅の駅舎の軒先で身体を拭いていると、ポーっと大きな汽笛を鳴らし、特別列車が出発していった。それを見ながら、なんだかさびしくなったあかでんだった。

 また1時間かけて西鹿島駅に戻ると、こちらの祭りもすっかり片付けられていた。さすがにとがめられはしなかったが、良心が若干痛むあかでんに、
「良かったか、中部天竜いけて」
話しかけてきたのは、遠鉄バス。
「……ああ」
「そか」
 そういうと、遠鉄バスは笑ってこういった。
「明後日は、もう1日ある天浜さんの手伝いに気合入れないとな!」
「おう!」

 ハイタッチ。

――――――

気づいてる人も多いと思いますが、タイトルがこのエピソードの年月日。
この日は遠鉄さんの鉄道祭りがあって、天浜さんもフェスタしていたのです。ちなみに遠鉄さんは1日、天浜さんは2日開催でした。
んでもって、この日は飯田線中部天竜駅構内にあった【佐久間レールパーク】の最終営業日だったんですよ!

……やめてイベント重なりすぎ。
と思いつつ、西鹿島→中部天竜とはしごした思い出。ええ、西鹿島駅は雨降ってなかったけど、中部天竜駅のラストは雨ざーざーだったんだよ!(ただの実話

ちなみに、作中あかでんは軽トラ(つまり車)で移動しております。この日の私の移動も車だったわけですが、バスで行けないわけではありません。遠鉄バス北遠本線が西鹿島駅から出てまして、それに乗って相月駅か城西駅か水窪駅まで行って、そこから飯田線で中部天竜駅に行くのが一番早かった記憶がある。
(途中でバス乗り換えで中部天竜駅行きってのもあったはずなんだが、当時調べた時に使えない!と思った記憶…)