2009年10~11月配布のVol.1よりもう1本。

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 天浜は悩んでいた。
 乗客があまり伸びないのだ。確かに沿線人口がそんなに増えていないというのもひとつあるのだが。
「なーんか、いいアイデアないかなあ……」


「それなら、いろいろやってみればいいじゃん」


 突然そんな風に呼び止められて、天浜はびっくりした。振り返るとそこにはあかでん。
「な、な、なんでお前がそんなとこにいるんだよ!」
「そんなとこって、ここ、どこだと思ってるんだよ」
 言われてあたりをきょろきょろすると、ここは西鹿島。天浜線と遠鉄電車の接続駅だ。
「ぼーっとだけはしてんなよ。事故とか起こると大変だぜ」
「わ、わかってるよ!」
 天浜は自分の顔が赤くなることを感じた。
「で、どうしたら乗客が増えるかだって?」
「あかでん。別にあなたには聞いておりません」
「そんなこというなよ。せっかく考えてやろうとしてるのによう」
 やれやれといわんばかりに、あかでんが大仰に手をひらひらとさせる。
 そこへ。
「おーい、あかでん。さぼってるんじゃねーよ」
 やってきたのは、遠鉄バス。
「お前こそ、なにサボってるんだよ」
「俺は鳥羽山公園でWebの撮影に行くんだよ」
 ちなみに鳥羽山公園は西鹿島で天浜線に乗り換え、一駅行ったところにある。
「……ボク、帰っていいかな……」
 遠鉄組の掛け合いを聞いてるうちに、天浜はこの場にいてはいけないのではないかという気分になってきた。
 だが。
「お前の話が元だろうが! 天浜、お前が帰ってどうする」
「え。え? 何の話?」
 あかでんに突っ込まれ、遠鉄バスに興味をもたれ、天浜は自分に逃げ場がないことを確信した。ため息しか出ないのだが。
「天浜が、どうやったら乗客増えるかって悩んでるの」
「あー、昔に比べたら増えたけどね」
 そして、遠鉄組は当事者抜きで話を続けていた。
「オレはあれなんだよな、記念乗車券とか出すといいと思うんだ」
「あ、でも、それだと切符だけ買って乗らないだろう」
「でも、売上にはなるじゃん」
 当事者が突っ込まないことをいいことに、言いたい放題である。
(もういいよほっといてほしい……)
 もう1回、天浜が大きなため息をつきかけたその時。
「そういや、天浜。何で転車台の見学やめちゃったの?」
 バスに突っ込まれて、天浜は思わずため息を飲み込んでしまった。
 転車台というのは、電車の向きを変える装置。昔はどこの鉄道会社にもあったものだが、いろいろな設備の発達によってなくなっていったものである。そして、天浜線の転車台は、扇形車庫とともに昔から使われ、国の有形文化財に指定されている、由緒正しきものなのだ。
 実は、数年前まで、この転車台は一般の人が見学できた。だが、マナーを知らない一部鉄道ファンなどの安全を守るため、一般公開は中止されてしまったのである。
「あれ、復活すれば人が増えると思うよ。今、鉄道ブームが来てるみたいだし」
「で、でもねえ……」
 遠鉄バスの意見はごもっともである。だが、動く車両の前に出てきて撮影するなど、マナーの悪い見学者の安全をどう確保したらいいかわからないのだ。
「あれじゃね? 逆に、見学コースとして設定しちゃえばいいんじゃね?」
 不意に、あかでんが口を開いた。
「見学コースって!」
「だからさ。日とか時間とか決めて、説明する係員もつけて、その時間だけ公開すればいいんじゃないかってこと。お金も取ってさ。前のときは、いつでもどうぞだったから問題になったんじゃね?」
「……な、なるほど……」
 あかでんの説明はごもっともだった。確かに、以前は時間も決めず乗車券をもっている方は自由に見学できた。だからこそ、問題になったのかも知れない。日や時間を決めたコースにして、そのときだけ専属の係員をつければ、逆に監視が出来て都合がいい。
「でもさ、コースにすると、その管理が……」
 そうなのである。前にいつでもどうぞ形式だったのは、予約制にしたときの管理が大変だったからである。それ専用の窓口を設けるわけにも行かない。個人の電話をひっきりなしに受けるほど、さすがに暇ではないのである。
「それだったら、当日受付制にしちゃえばいいんじゃない?」
 そう提案するのは、バス。
「何時までに来てください。そのときに、受付切符を買ってください。それでいいんじゃないかな。まあ、本社でやるわけだし、人数少なかったら当日中止でもいいわけだしね」
 そう言って、バスはからからと笑った。
 言い方は無責任ぽいが、なぜか説得力がある。
「そうかあ、そういう風にやればいいのかあ……」
「ま、客はオレたちも運ぶしさ。連絡乗車券もできたし」
 連絡乗車券というのは、遠鉄電車と天浜線の1日共通乗車券である。遠鉄電車の全線と、天浜線の西エリアと東エリアいずれかが1日乗り放題という切符である。ちなみに、西と東、どっちのエリアの切符を買っても転車台がある天竜二俣駅にはいけるようにしてある。
「そうだね」
「まあ、なんかあったらまた相談してよ。知恵は出すから」
 そう言って、バスはあわてて移動してしまった。今から鳥羽山公園に行くのだろう。
「他にもいろいろ企画やって行けばいいんじゃね? だめだったらやめればいいわけだし」
「そうだね、ありがと」
 そういって、2つの列車は西鹿島駅を後にしたのだった。

 
 そして夏休み。久々に復活した転車台の見学は大盛況を収めたのであった。

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2009年に今の形で天浜線の扇形車庫や転車台の見学が開始されました。
それ以前もなかったわけではないのですが、まあ大きなお友達のいろいろで見学禁止になりまして。ええ。
……この時なんで再開になったのかなーというのは当時気づかなかったのですが、たしかこの前後くらいに社長が変わったんだった、っけ?(記憶あやふや)

これもあちこち修正かけてます。
……アップ事に気づいたんだけど、これ書いてる時点では赤い人と銀の人は兄弟って明記してたね…。現在の設定でも、同じ釜の飯を食って育った義兄弟ではあるのですが。